未改装住戸を、リノベーション済み住戸の価格でそのまま査定しない
最初に確認したいのは、査定で比較されている住戸の状態です。
同じマンション、同じような面積・階数でも、
- 長期間未改装の住戸
- 一部を更新した住戸
- フルリノベーション済みの住戸
では、買主が評価している商品が違います。
たとえば同じマンションのリノベーション済み住戸が8,000万円で売り出されていたからといって、未改装住戸もそのまま8,000万円を基準にできるとは限りません。
自分でリノベーションしたい買主もいます。
ただし、その買主は購入後に工事費を負担します。
買主にとって重要なのは物件価格だけではなく、「物件を買って、自分が希望する状態にするまで総額でいくら必要か」だからです。
住宅購入費とリフォーム費用を一体で借りられる商品もあれば、別のリフォームローン等を検討するケースもあります。利用条件は金融機関や商品によって異なるため、一律には扱えません。
だから売主は、査定価格を見るときに、
「比較事例は未改装ですか。それともリノベーション済みですか」
と確認してください。
リノベ済み事例を使っているなら、その価格をそのまま自室に当てはめるのではなく、室内状態と工事費負担の違いがどのように査定へ反映されているかを確認することが重要です。
A. 現状販売|工事をしない代わりに「未改装としての価格」が重要
現状販売には、自分でリノベーションしたい買主を対象にできる利点があります。
売主側で大きな工事費を先に負担する必要もなく、工事完了を待たずに販売を開始できます。
一方で、
「自分でリノベしたい買主がいる」=「リノベ済み住戸と同じ価格で買ってくれる」
ではありません。
買主は購入後の工事費まで含めて総予算を考えます。
そのため現状販売を選ぶなら、
- 同一マンションや周辺の未改装事例
- リノベ済み住戸との価格差
- 想定される改修範囲
- 競合する未改装住戸
- 買主が物件取得後に負担する費用
を確認したうえで、未改装住戸としての価格を考えます。
売主が判断するポイントは、「工事をしないか」だけではなく、「現状のままなら、どの買主に、どの価格で見てもらえるか」です。
B. 表層リフォーム|少額なら何でも費用対効果が高いわけではない
クロスや床などを整えることで、室内全体の印象が改善する場合があります。
特に、比較的限定された工事で内見時の印象を大きく変えられる住戸なら、表層リフォームを検討する意味があります。
ただし、
「クロスは新品だが、キッチンや浴室はかなり古い」
といった状態では、工事費をかけても買主の商品評価が大きく変わらない可能性があります。
だから発注前に確認したいのは、工事項目の数ではありません。
「この工事によって、買主から見た住戸全体の商品性が変わるか」です。
現状写真や競合住戸と比較し、
- どこが内見時の弱点になっているのか
- その弱点は少額工事で改善できるのか
- 改善後にどの競合住戸と比較されるのか
を整理してから工事範囲を決めます。
C. フルリノベーション|「いくら高くなるか」ではなく投資として考える
フルリノベーションによって、未改装状態では検討しなかった買主まで対象を広げられる可能性があります。
一方で、売主にとっては大きな先行投資です。
また「フルリノベーション」と呼ばれる工事でも、設備・内装中心なのか、配管等まで含めるのかによって工事内容も費用も変わります。
判断するときは、
工事費 < 売却価格の上昇見込み
だけを見ないでください。
たとえば、
- 工事費
- 工期
- 販売開始が遅れる期間
- 工事代金の資金負担
- 管理費・修繕積立金等の保有コスト
- 完成時に競合しているリノベ済み住戸
- 想定販売価格
- 売れなかった場合の価格調整余地
まで比較する必要があります。
500万円の工事をしたから、500万円以上高く売れれば必ず成功、というわけでもありません。
工事期間中に販売機会を逃したり、完成時に競合が増えたりする可能性もあります。
売主が発注前に行うべきことは、「現状・表層・フルリノベ」の3案について、想定価格だけでなく時間と資金負担まで並べることです。
3案は「売値」ではなく「売主の手残りと時間」で比較する
売却前リフォームを判断するときは、3案を同じ表で比較すると分かりやすくなります。
| 確認項目 | 現状販売 | 表層リフォーム | フルリノベ |
|---|---|---|---|
| 工事費 | 原則なし | 比較的小さい | 大きい |
| 販売開始 | 早い | 工事内容による | 遅くなりやすい |
| 狙う買主 | 自分で改装したい層など | 現状より印象を重視する層 | 完成済みを求める層まで広がる可能性 |
| 価格比較 | 未改装事例が重要 | 未改装・改装済み双方 | リノベ済み競合が重要 |
| 売主の先行負担 | 小さい | 工事費が必要 | 大きい |
| 主な確認事項 | 未改装としての適正価格 | 工事で商品性が変わるか | 投資全体を回収できるか |
| 保有コスト | 販売期間中の負担を確認 | 工事期間分を確認 | 工事・販売期間分を確認 |
| 完成時競合 | 現在の競合を確認 | 工事後の競合を確認 | 完成時のリノベ済み競合を確認 |
売出価格だけで比較しない。
ここでの目的は、どれか一つを一般的な正解にすることではありません。
自室について3案を並べ、「工事をした場合としなかった場合で、売主の手残りと販売までの時間がどう変わるか」を比較することです。
まとめ|リフォーム会社へ発注する前に、3つの売り方を比較する
売却前リフォームで最も避けたいのは、
「古いから、とりあえず直してから売ろう」
と工事を先に決めることです。
まず、
現状販売
表層リフォーム
フルリノベーション
の3案を作ります。
そのうえで、それぞれについて、
- 誰が買主になるか
- どの物件と比較されるか
- いくらで売り出す考え方になるか
- 工事費はいくらか
- いつ販売開始できるか
- 工事期間中の保有コストはいくらか
- 完成時の競合はどうなりそうか
を比較してください。
リフォームするかどうかを決めるのは、その後です。
売却前リフォームは、内装をきれいにする問題ではなく、売主にとって投資として成立するかを判断する問題です。