「旧耐震=住宅ローンが使えない」ではない
まず整理しておきたいのは、旧耐震マンションだからといって、すべての住宅ローンが一律に利用できなくなるわけではないということです。
一方で、新耐震のマンションと同じように、買主がどの金融機関・商品でも自由に選べるとは限りません。
金融機関や住宅ローン商品によって、旧耐震マンションに対する取り扱いや必要な確認が異なるためです。
売主にとって重要なのは、
「ローンが使えるか、使えないか」の二択で考えないこと。
自分のマンションでは、どのような条件を確認され、どの住宅ローンなら検討できる可能性があるのかを把握することです。
この違いは、購入希望者が現れた後の販売実務にも影響します。
多くの人が知っている1981年の新耐震基準
旧耐震について調べると、まず出てくるのが1981年です。
1981年には建築基準法施行令が改正され、現在一般に「新耐震基準」と呼ばれる基準へ移行しました。
ただし、ここで注意したいのは、完成年だけで適用基準を断定しないことです。
「1981年築だから新耐震」
と単純に判断するのではなく、その建物がいつ建築確認を受け、どの基準に基づいて設計されたのかを確認する必要があります。
売却査定で、
「旧耐震なので価格を下げています」
と説明された場合も、築年月だけを見て判断しているのか、実際の建物資料まで確認したうえで評価しているのかでは意味が違います。
売主は、
「建築確認時期や適用された基準まで確認したうえでの評価ですか?」
と確認してみるとよいでしょう。
旧耐震は一種類ではない。実は1971年にも重要な節目がある
1981年の新耐震基準は広く知られています。
一方、旧耐震と呼ばれる期間の中にも、もう一つ知っておきたい節目があります。
1971年です。
1971年の建築基準法施行令改正では、RC造の柱の帯筋などに関する構造規定が強化されました。
これは1981年の新耐震基準とは別の改正です。
そのため、
「1981年以前の建物は、すべて同じ構造規定で設計されていた」
と考えるのは正確ではありません。
ただし、ここで1971年を新しい線引きとして使うのも適切ではありません。
「1971年以前だから危険」
「1972年築だから問題ない」
という話ではないからです。
1971年・1981年はいずれも、単純な「築年数」の境界として使うものではありません。
対象マンションがどの時点の基準に基づいて設計され、建築確認を受けたのかを確認することが重要です。
では、売主は1971年を知って何をすればよいのか
1971年の改正を知る目的は、耐震に詳しくなることではありません。
査定や販売の場面で、
「旧耐震だから全部同じ」
と一括りにされていないかを確認するためです。
売主は、築年だけではなく、
- 建築確認の時期
- 適用された基準について確認できる資料
- 耐震診断の有無
- 耐震補強の有無
- 建物形状
- 管理組合が保有している関連資料
を確認します。
そして、その情報を住宅ローンの確認につなげます。
ここまでやって初めて、1971年という知識が売却実務に意味を持ちます。
耐震診断・耐震補強の状況も確認する
旧耐震マンションを売却するときは、建築時期だけではなく、現在の建物について確認できる資料も重要です。
たとえば、
- 耐震診断を実施しているか
- どのような診断結果だったか
- 耐震補強を実施しているか
- 管理組合でどのような検討が行われているか
- 関連する証明書や資料があるか
などです。
ただし、資料を集めること自体が目的ではありません。
買主や金融機関から質問されたときに、
「このマンションについて、ここまでは確認できています」
と説明できる状態をつくるためです。
売却活動が始まってから資料を探すより、販売前に整理しておけば、買主の検討や住宅ローン審査で確認事項が出たときにも対応しやすくなります。
ピロティ型など、建物形状によって確認事項が増えることもある
旧耐震マンションでは、建築時期だけではなく建物形状も確認します。
たとえば、1階部分の一部を柱などで支え、駐車場や通路として利用しているピロティ型です。
ここでも、
「旧耐震+ピロティ=住宅ローン不可」
と一律に判断してはいけません。
一方で、建物形状によって構造上の確認事項が増え、金融機関や住宅ローン商品によっては慎重に確認される場合があります。
フラット35の耐震評価基準でも、共同住宅についてピロティ部分の偏在などに関する確認項目があります。
したがって売主は、
「ピロティだから売れない」
と考えるのではなく、
- 建物の構造
- 耐震診断
- 補強状況
- 関連資料
- 利用を検討する住宅ローンの商品条件
を確認します。
建物形状そのものを価格減価の理由にするのではなく、その形状によって実際に何が確認されるのかまで調べることが重要です。
住宅ローンは金融機関・商品によって取り扱いが違う
旧耐震マンションの売却で実務上重要なのが、住宅ローンの選択肢です。
以下は2026年8月時点で確認できる公式情報をもとにした整理です。 金融機関や商品条件は今後変更される可能性があるため、実際の売却時には最新条件を再確認する必要があります。
たとえば、フラット35では、建築確認日が1981年5月31日以前の住宅だから一律に対象外となるわけではなく、所定の耐震評価基準などへの適合が確認事項になります。
一方、銀行の住宅ローンでは商品ごとに条件があります。
たとえば三菱UFJ銀行の「かんたん事前審査」では、旧耐震基準の中古マンションは対象外とされています。
ただし、これは「その事前審査サービスの対象外」という話と、「その銀行の住宅ローンが絶対に利用できない」という話を分けて考える必要があります。
楽天銀行についても、自社住宅ローンとフラット35は分けて確認する必要があります。
りそな銀行も、旧耐震マンションについて公式FAQで条件を示しています。
重要なのは、金融機関名をたくさん覚えることではありません。
同じ旧耐震マンションでも、金融機関・住宅ローン商品によって取り扱いが異なる
ということです。
そして売却時には、その時点の最新条件と対象マンションの状況を確認する必要があります。
売主側の仲介会社も「使える可能性のある住宅ローン」を把握しておく
ここが旧耐震マンションの販売で特に重要です。
購入したいという人が現れても、その人が住宅ローンを利用できなければ購入には進めません。
旧耐震マンションでは金融機関や商品によって取り扱いが異なるため、購入希望者が現れてから初めて住宅ローンを調べ始めるのではなく、売却前から検討可能性のある金融機関・商品を整理しておくことに意味があります。
もちろん、買主の資金計画や住宅ローン手続きをサポートするのは、基本的には買主側を担当する不動産会社の役割です。
しかし、すべての担当者が旧耐震マンションの融資条件に詳しいとは限りません。
買主側の仲介会社から、
「旧耐震なので住宅ローンは難しいです」
と言われ、それだけで検討が止まってしまう可能性もあります。
そこで売主側の仲介会社にも、
- このマンションではどの金融機関・商品に検討余地があるのか
- どのような建物資料が必要になる可能性があるのか
- 耐震診断や補強状況について何を説明できるのか
- 買主側の仲介会社から質問されたとき、どこまでフォローできるのか
を整理しておくことが求められます。
買主側の仲介会社に知識が十分でなければ、売主側の仲介会社が情報を共有してフォローする。
せっかく購入したい人が現れたときに、住宅ローンの情報不足だけで購入機会を失わないための準備です。
「旧耐震だから何%下げる」ではなく、購入まで進める条件を整理する
旧耐震マンションの査定で、
「旧耐震なので○%下げます」
という説明を受けることがあります。
しかし、本来確認したいのは、その数字の根拠です。
同じ旧耐震でも、
- 適用された構造基準
- 耐震診断の有無
- 耐震補強の状況
- 建物形状
- 管理状況
- 利用を検討できる住宅ローン
- 競合するマンション
- 住戸自体の条件
は異なります。
したがって売主は、
「旧耐震という理由だけで下げたのか。それとも、このマンションで実際に購入できる買主や融資条件まで調べたうえでの価格なのか」
を確認する必要があります。
査定価格そのものを見るだけでなく、査定会社がどこまで販売実務を想定しているかを見ることが大切です。
売却前に確認しておきたいこと
旧耐震マンションを売却するなら、少なくとも次の流れで整理しておきたいところです。
建築確認・適用基準について確認できる資料を整理する
耐震診断・補強状況・建物形状について、確認できる情報を整理する
管理組合等から取得できる関連資料をまとめる
売却担当会社と、検討可能性のある住宅ローン・金融機関や必要資料を整理する
買主側の仲介会社へ必要な情報を説明・共有できる状態をつくる
その条件を踏まえて売出価格・販売期間・販売方法を決める
ここで、売主自身が金融機関や耐震資料をすべて調べ切る必要はありません。
売主は、手元にある資料や管理組合から取得できる情報を整理し、売却担当会社と一緒に「何が確認できていて、何を追加で確認する必要があるか」を明確にすることが重要です。
住宅ローンについても、売主本人が個別の商品条件をすべて調査するのではなく、売却担当会社と、
- このマンションで検討可能性のある金融機関・商品はあるか
- 買主側からどのような資料を求められる可能性があるか
- 購入希望者が現れた際、誰がどのように確認・説明するか
を整理しておく方が実務的です。
旧耐震であること自体を隠す必要はありません。
反対に、旧耐震という言葉だけで必要以上に売却条件を悪く考える必要もありません。
重要なのは、旧耐震だから何%下げるかではなく、購入したい人が現れたときに、その人が実際に購入まで進める条件を整理しておくことです。
売却を依頼する不動産会社を選ぶ際も、単に「旧耐震でも売れます」と説明するかではなく、
- 建物資料をどこまで確認するか
- 現在の住宅ローン条件をどこまで把握しているか
- 買主側の仲介会社から質問があった際に、必要な情報を整理して説明できるか
まで確認すると、販売実務への対応力を判断しやすくなります。